南房総サイクリング①

南房総の海

午前11時前に南房総白浜の民宿「勘太郎」の駐車場に、

いつものメンバーであるK氏、T氏、私が集合。

私はT氏のクルマに同乗しアクアライン経由で現地入り。

アクアラインはETC割引が効いて、半額の1,500円だった。

この料金を基本として、ここからETC割引が適用されるようになったら、

更に利用客が増えるのにと思う。

途中「うみほたる」に寄るが、風がびゅうびゅう吹いて寒いのなんの。

シールドマシンの巨大なカッターディスクなどを見て、そそくさとクルマに戻る。

房総半島の内陸部には積雪があり、先行きが不安になる。

雪解けで水溜りだらけだった場合、自転車にドロヨケが無いので大変なことになるからだ。

K氏は九十九里浜白子ユースホステルに前泊して現地入り。

集合までの道中、時々K氏から現在地を示す謎めいたメールが送られてきたのが面白かった。

勘太郎の主人に駐車場利用と、これからサイクリングする旨を伝え、午前11時に出発。

いくらも走らないうちに、T氏のリクセンカウルのキャリアの調整として使っている

割り箸が外れるというハプニングが発生するが、特に問題無く処置。

海岸沿いの道を時速25キロほどで走る。

間もなく白亜の野島崎灯台が間近に現れたが素通り。

芝生のような草地と洗濯板のような岩場が入り混じる海岸を左手に眺めながら、

洲崎に向かって淡々と走る。

心配していた雪の影響だが、ここ白浜では氷のかけらすら見当たらず、

また台風一過のような晴天に恵まれ、絶好のサイクリング日和だった。

じきに、「和田白浜館山自転車道」の案内標識が現れた。

入り口には、「若い海女」の像があったりシュロが生えていたりして、

この先の道のりが素晴らしいものになりそうな期待を抱かせたが、

景色は良いものの、ところどころ砂の吹き溜まりが現れ、その度に下車を強いられ、

また、それほど走らないうちに元の国道に吸収され、期待未満だった。

白浜フラワーパークが左手に見えた辺りで上り坂になった。

今まで平坦な道が続いたが、海岸沿いを走る以上アップダウンは避けられないのかもしれない。

しかし、坂はそれほど続かず一安心。

短いトンネルを抜けて坂を下ると、菜の花の植え込みとシュロが目立つ相浜の交差点。

シュロとか菜の花とかを配して南国の雰囲気を出そうとしている努力が見て取れたが、

やはり2月は寒い。冬でも温暖な房総なんて宣伝文句は欺瞞なのだ。

沖縄じゃないんだから、冬は冬としてキチンと受け入れて欲しい。

ま、底冷えの南房総なんて言ったら、誰も来ないか。

国道410号と別れて、相浜を起点とする「房総フラワーライン」−日本の道100選−を行く。

この道は菜の花の花壇と海側に防砂林が延々と続く直線路で景色は良いが、

向かい風に阻まれて快走とまではいかない。

12時近くになり道の駅「南房パラダイス」に到着。

シンガポール国立植物園姉妹園」だそうだ。

ちょっと見ていくか…となったが、入園料800円也を見てパス。

が、ちょうど昼時なので道の駅に併設された食堂でメシにする。

海鮮モノがここのウリのようだったが、晩メシとダブることを避けて天ぷら蕎麦を注文。

店内は混雑していたが、水のお代わりを頼むとすぐに持ってきてくれて好感が持てた。

蕎麦も普通に旨かった。

12時半頃出発。

相変わらずの向かい風だが、昼飯前よりも若干強くなったような気がする。

メシを食べて体が重くなったせいかもしれない。

忘れた頃に、再び砂の吹き溜まりが出現した。距離は短いものの行く手を阻む。

千葉県は、歩道や自転車道の維持管理にもう少し配慮を払いなさい。

20分ほど走り緩い坂を上るとフラワーライン終点の標識が現れた。

もっともフラワーライン区間が終わっただけで道は先に続く。

右手に、「洲崎神社」が現れた。石碑には安房之国一宮と刻まれており、

由緒のある神社であることが窺えたが、敬意を払い…というか、

山の中腹まで続く参道を見て怯んでしまい、本殿まで行くのは諦める。

神社から1キロほどで洲崎灯台入り口に到着。

クルマで来れば駐車料金200円が必要だが、我々はカネを払うことも無く、

灯台へ至る階段下に自転車を置く。

階段道は途中で二手に別れた。右手は「絶景」に至るなどと書いてソソノカシていたが、

我々は正しく左手の道を行く。

灯台にはすぐに辿り着いたが、無人で中に入ることは出来なかった。

しかし、灯台前はちょっとした広場になっており、360度の景色を楽しむことが出来た。

広場を囲むコンクリ塀は記念の落書きで埋め尽くされていた。

自分の家の塀ならやらないくせして、まったくレベルが低いバカヤロどものシワザだ。

強風で、風に正対する鳥が空中で静止しているのが面白い。

岬の先端にポツンと佇む一軒家が見えたが、ここはまさに東京湾の入り口。

嵐があればモロに影響を受けるだろう。ちょっと無謀な感じ。

灯台から戻る途中、塀に阻まれ灯台敷地に入れないカップルを見かけた。

先ほどの分岐で「絶景」方面に向かったに違いない。気の毒だ。

洲崎からは館山市街方面に向かう。

進行方向が西から東へと変わったので追い風を期待するが、それほどでもなかった。

小さな起伏とカーブが続く海沿いの道をしばらく走る。

休暇村館山を過ぎると、「見物海岸」というJRのバス停が現れた。

お約束で見物してみるが、先を行くK,T両氏の姿が小さくなってしまい、アセって追いかける。

信号待ちの後、何気なく道路右手を見ると「鉈切洞穴」の看板が見えた。面白そうだ。

洞穴は神社の境内にあり、長い参道を歩いていく。

やがて陰気臭い社殿が現れたが、その後に控えている肝心の洞穴は施錠されて入れない。

格子戸から中の様子を窺うと小さな祠があった。

案内板に「古墳時代には一部が墓として利用され…」の記述を見つけた。

後から何かが付いてきそうな感じを覚えつつ来た道を戻る。

境内の入り口に水仙の小群落を見て、なんだか安心した。

館山の市街に入ると、「50mプール・豊津ホール・赤山地下壕跡」というチグハグな

取り合わせの看板が目に入った。これも面白そうだ。

先ほどの洞穴は空振りだったが、今度の地下壕は期待出来そうだ。

しかし、洞とか壕とかが好きということは、私は基本的に暗いニンゲンなのだろうな。

黄色いヘルメットを被った人たちに出くわし壕内に入れる確信を得る。

受付を済ませ、懐中電灯を手にして、いざ壕へ。

撮影すると心霊写真で言うところのオーブが写ったが土ボコリがひどいせいだろう。

内部はいくつも枝分かれしているが、それらの殆どが奥のほうに柵が設けられており、

立ち入れないようになっている。

最初のうちは結構広いなと思ったが、見学にはさほどの時間を要しなかった。

受付の人に尋ねると、3年前から公開をしている戦争遺跡とのことであるが、

そのうち変質者の出没スポットになりそうな予感がする。

内房線の踏切を越え、昼間からシャッターばかりが目立つ「館山銀座」を通る。

南国ムードをアピールするなら、こういう寂れた風景こそ何とかして欲しい。

国道128号を進み、稲交差点で国道から別れ、内房線に沿った県道に入り千倉方面に向かう。

内陸部ではあるが線路沿いだけに平坦。間もなく右手に個性的な佇まいの九重駅が現れたが、

もう少し雰囲気のある山の中の駅が現れたら…とパス。

しかし、九重駅の次は海沿いの千倉駅だったのだ。立ち寄れば良かった…

短い峠道を上りトンネルを抜け館山市から南房総市に入る。

市境からは下り勾配が続き、なかなか快適。

いつの間にこんなに標高を稼いでいたのだろうか。

千倉駅に立ち寄る。九重駅とそっくりな外観。個性的なものも2つ続くと没個性的。

いくつもプラットホームのある古びたバス停と、ガランとした駅前の空間が、

過去の栄華を物語っているように思えた。

街中を走る国道410号から海沿いの道に移ると、「魚っちんぐ千倉」という

漁協の産直施設が現れた。「ぎょっちんぐ」じゃなくて「うぉっちんぐ」なのは言うまでも無い。

店頭販売のサザエの壷焼きに釣られて立ち寄る。

が、サザエは数人前の客で売切れてしまった。自分の人生だいたいこんなモノだ。

売り子のオネエサンは哀れに思ってくれたか、カワハギを1枚焼き始めてくれた。

1枚じゃ3人分には足りないのでもう1枚頼んだ。

代金を尋ねると、オネエサンのオヤツとして持っていたものを焼いたからタダで良いとのこと。

「もう1枚!」なんて言って、ズーズーしいと思われたろうなぁ。

店内には海産物だけでなく、味に相当な自信を持っている地物のミカンが売られていた。

荷物になるから明日買うことにする。

魚っちんぐ…からそれほど行かないうちに、道の駅「ちくら・潮風王国」に到着。

漁船「第一千倉丸」の展示があった。なかなか立派な漁船だ。

例のイージス衝突船もこんな感じだったのだろうか。小休止して出発。

行程も殆ど終盤の今頃になって、かなりの追い風が吹いてきた。

16時過ぎに民宿に到着。走行距離54キロ余。

暗くならないうちに無事に辿り付けて良かった。

民宿の前にはクルマが並び「満室」の表示が出ていた。それなりに人気があるのだろう。

自転車をバラして車載した後チェックインする。

用意された部屋は景色の良い海側の「ぽぴい」の間。

風呂場が混みださないうちに一浴することにしたが、

ステンレス浴槽のせいかどことなく家庭の風呂っぽさが漂っている。

が、脚が伸ばせるぐらいの広さがあるから特に不満を申し述べるまでもない。

夕飯は部屋出し。

オネエサンがガチャガチャと配膳ケースを持ってきて部屋に置いていく。

後はよろしくやってくれということらしい。なんだか忙しそうだ。

ビールで乾杯し、さっそくおかずにとりかかる。

刺身の皿盛りをはじめ海のものがテーブルの上に並ぶ。

K氏はユースでイワシ料理を堪能したとのことなので、二日続きの魚料理になった。

入荷次第と言われていた特別料理のクジラステーキと伊勢海老の刺身は両方出た。

伊勢海老はまあ予想通りのモノだったが、クジラステーキはレバーっぽいというか、

素朴な味というか…それほどでも無い。まぁ、話のタネに食ったと思って納得する。

しかし、天ぷらは若干ベチャついた感じでムムムな代物であった。

夕食を片付けて、T氏持参の純米吟醸「聖極 雄町米」を頂く。

フルーティーで上品な味わい。かなり旨い酒だ。

「雄町米」は酒の名前かと思っていたが、酒造好適米の一種だそうだ。

さて、酒は旨いがツマミが無い。T氏持参の「じゃがりこ」はすぐ無くなり、

ついには甘食、ミニクリームパンなど、およそ日本酒のつまみとしてギモンなモノに

まで手を出したが、じきにそれらも無くなった。

ベチャつき天ぷらでもいいから残しておけばよかったなぁ。

K氏が外出して探索を試みるが、自販機があるのみという結果に終わった。

自分も外出してみるが、宿の周りは自販機の煌々とした明かりと潮騒の音だけ。

コンビニに汚染されることも無く、正しい日本の漁村の姿を保っているのだなぁと、

ウナダレつつ宿に戻った。