国際列車

ホームで列車の入線を待っている。

あまり広くないホームは旅客でごった返していて、異国の言葉が飛び交っている。

階段から中国語らしい若い女性たちの嬌声が聞こえてきた。

振り返ってみると6人ぐらいいる。ますます混雑に拍車をかけることになり、

げんなりしてくる。

中国人たちは、列車を待つ人々の列など眼中に無いように、勝手なところに陣取り始めた。

そこに居たってドアの場所は違うのに…と思うが、コトバが分からないので、

どうしようもない。

そういえば、中国人は列を作って待つ習慣が無いから、北京オリンピックに向けて

マナー向上のために、列を作って並ぼうみたいなキャンペーンやってたっけな。

どうなっても知らんからねと思っていると、私の列の後に並び始めて一安心。


しばらくして、ちっぽけな列車がやってきた。たったの3両だ。

この客数でこの両数じゃ、席が全然足りないのは目に見える。

気がつくと、後に居たはずの中国人が、当然とばかりに私の隣に居る。

腕を伸ばしてブロックしたら、驚いた顔をして後ろに下がった。

お国柄を配慮しても、割り込まれたら気分が悪いのだ。


ドアが開いて、怒涛の勢いで列車内に乗客がなだれ込んできた。

乗客同士のスーツケースがぶつかり合う音も聞こえてきた。

私は列の一番前に居たので、窓側の席に座ることが出来た。

隣の席にタイ人が来た。

いや、ベトナム人かもしれないが、別にどうでもいい。

タイ人は、座るなりいきなり脚を拡げてきた。

座ってインタビューを受けているときのような哀川翔並みの拡げ方だ。

おかげ窮屈でたまらない。

拡げ返してみるが、タイ野郎はまったく動じる様子が無い。

縮こまっている必要も無いので、そのままタイ野郎の脚に

自分の脚がもたれかかるようにしておいた。こうすればお互い様だ。

やがて、タイは外の景色を気にしているような様子を見せだした。

周りには雪が解け残り、山々は真っ白だ。

出発時には雪の気配も無かったのに、急激な変化に驚く。

雪が珍しいから、景色を良く観てみたいのかと思い、チェンジシートした。

タイは窓に顔を押し付けて景色を見ている。脚の拡げかたも若干収まった。

良かったと思ったのもつかの間、タイは何かふにゃふにゃ言いながら寝だした。

譲ってソンしたじゃないか。

タイ野郎の体はだらしなくも、どんどんナナメになってきて、

こっちに尻を押し付けるカタチになってきた。

しかし時々目を覚まして、座れないで居る仲間のタイ人と、甲高い声でしゃべったりしている。

そういえば中国人たちも、乗り込んでから一時も休まることなく大声で会話を続けている。

気にしだしたら止まらなくなった。

うるさい、うるさい!

見回すと、乗客の殆どが東南アジア系の人ばかりだった。

先頭の方の席に欧米人が一人座って居たのが目に入った。

欧米人は耐えるかのように、眉間にしわをつくってじっとしていた。ように見えた。

30分後、この窮屈でうるさい大垣→米原の各駅停車から開放された。

乗り換えた大阪方面への新快速電車には連中も乗り込んできたが、

用心のため何両も離れたところに座ることにしたので、もはや苦痛は無くなった。

やがて、東南アジアの列車に実際に乗ったら、こんなものじゃないんだろうと

いう考えが浮かぶぐらいに、自分の心は落ち着きを戻した。