ピンチをチャンスに

天気がいいので会社まで自転車で行く。

いつものように皇居前広場で、タオルやデオドラントスプレーなどでアセの始末をして、

私服のジーンズから会社用の格好に着替えようとすると…

無い!

着替えを家に置き忘れてしまった。

9時始業で、ただいまの時刻が8時40分。

急いで往復したって80分かかる。そうなれば、完全に遅刻だ。

マズイ、マズイ…

じゃあ、このまま私服で行くとなると、会社からは自転車で来ないように言われてるから、

「自転車で来て服を忘れました」なんて言おうものなら…

いくら自分がズル賢いからと言って、このピンチをどうすればいいのか。

周りの芝生で寝転んでいるルンペンが、自由でうらやましいなぁなどと、

現実逃避に走り出す。

もう、どうにでもなれと私服で会社に向かう。

会社のビルに入ってエレベータに乗ってから、いいことを思いついた。

「倉庫整理」

そうだ、これだよ、これ!

倉庫整理はホコリまみれの汚れ仕事だから、通常私服でやるのだ。

おまけに、隣のビルの地下倉庫は、自課の書類のダンボールが大量にあり、

いつか整理しなければならない状態であった。

さらに、連休の中日。

倉庫整理は、わが社では土曜日とか比較的ヒマな日にやるもので、

通常の月曜日にやるというのは、なんとなく不自然な感じがするものだが、

なんとも好都合だ。

ただ、そうは言っても、最初から私服で会社に来るのはなぁ…

おずおずと会社に入ると、案の定好奇の視線が集まってきた。

とっとと上司のところへ行き、「今日は一日倉庫整理をやろうと思いまして私服で来ました」

などというと、「あぁそうかい」とあっさりピンチな状況をクリアできた。

通路まで溢れかえっているホコリまみれのダンボールを前に、

さらに法定保存年限の確認をしながらの作業で悪戦苦闘したが、

夜7時近くになって、整理完了。

廃棄すべきダンボール70箱を別室に移すことができた。

いずれ筋肉痛に見舞われることだろう。

うがいをすると、信じられないことに黒いモノが出てきた。

相当ホコリを吸い込んだようだ。

作業が完了してオフィスに戻ると、秘書にばったり出くわした。

服のホコリは払ったつもりだったが、肩から背中まで相当汚れているといわれた。

鏡を見たら、朝ちょっとうらやましいと思った、ルンペンみたいになっていた。